再生医療製品の実現性

Nick 2017/01/10 製薬

 
現在、再生医療の実臨床への応用が盛んに研究されています。新聞やテレビなどのメディアでは、近い将来、障害のある臓器を、再生医療技術を用いて再生した臓器に置き換えるというような、まるでSF世界のような話題も出てきます。なかでもiPS細胞を用いた研究は実用化に近いと言われていますが、いったいどのような状況なのか見ていきたいと思います。

 

iPS細胞とは

iPS細胞は2006年8月に、マウスでの樹立が報告されました。続いて翌07年11月には、ヒトでiPS細胞ができたというニュースが世界を駆けめぐりました。iPS細胞は、患者自身の皮膚細胞など、すでに特定の役割を持つ細胞に分化した「体細胞」から時計の針を逆に回して、細胞を初期化したものです。人工的に最後の記憶をリセットして受精卵の状態に戻したわけです。ES細胞と同じように、あらゆる細胞になれる「多能性」をもち、いろいろな細胞のもとになる「幹細胞」であり、能力はほとんど同じです。

 

疾患の原因究明

iPS細胞で細胞移植ができるとか、臓器が再生できるといった可能性よりも、より近くにある可能性として期待されているのが、病気の研究や薬の開発に患者由来のiPS細胞を利用することです。iPS細胞を使って病気のモデルをつくり、その治療薬を開発したり、評価したりしようというものです。

その対象の一つに、運動ニューロン病があります。運動ニューロン病とは、運動神経の異常によって骨格筋の筋力が低下する病気で、脊髄性筋萎縮症(SMA)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などが代表的です。SMAは、SMNという遺伝子の変異で起きます。父と母からこの変異を受け継ぐと、子供は必ず発症します。

一方、多くのALSは原因不明で、成人してから発症する例が多いです。いずれにしても、何らかの原因で脊髄の運動神経細胞が変性または死滅してしまい、その神経の行き先である筋肉がやせ細ってマヒする病気でこれまで有効な治療法がありませんでした。

これらの病気にiPS細胞が恩恵をもたらしそうなのです。 SMAやALSの患者の皮膚からiPS細胞をつくり、大量に増やしたあととで運動神経細胞に分化させることに、多くの研究者が成功しています。変異を受け継いだ運動神経細胞を大量に入手できることで、病気の原因の解明や、効果的な薬剤の開発が急速に進むと期待されています。

 

医薬品の毒性評価

もう一つ、より現実的なiPS細胞の使い道として期待されているのが、薬の毒性や副作用の評価です。よく引き合いに出される例に、QT延長症候群があります。これは、アルファベットで表される心電図の波形のうちQとTの間隔が正常より長くなるもので、しばしば心室頻拍などを起こし、致死性の不整脈につながります。ありふれた薬を投与しただけなのに、患者は意識を失い、適切に治療されないと亡くなるという非常に厄介な副作用で「心毒性」と呼ばれます。

新薬を世に出そうというときに、万が一こういう副作用が起きては、患者も製薬会社もたまったものではありません。それで現状では、過去にそういう異常を起こしたことのある体質の人に依頼して、心臓の専門医が心電図をモニターしながら新薬の候補を投与する方法をとっています。危険な検査なので、除細動器を置き、救命措置の準備をしながら慎重にしなければなりません。

ところが、患者のiPS細胞から培養皿中て拍動する神経細胞をつくれば、そこに新薬候補を投与して、心電図のような反応を記録することができます。この方法で、患者に負担をかけずに、いままでできなかったような高い精度で心毒性を予測できるのでは、と考えられています。

すでにiPS細胞からつくった心筋細胞の販売を開始した会社もあり、製薬業界は関心をもっています。心臓病患者由来のiPS細胞から作った心筋細胞が心毒性の検査に広く使われるようになる日はそう遠くないかもしれません。

 

まとめ

このように、iPS細胞の利用法としては現在、再生医療よりも創薬や毒性試験における「疾患特異的iPS細胞」の利用が注目されています。疾患特異的iPS細胞とは、先の例であげたように、ある特定の病気の患者からつくったiPS細胞を指します。iPS細胞を患部と同じ組織に分化させることができれば、その病気の発生メカニズムの解明や薬物の負荷試験などが容易になると考えられています。