Apex株式会社は先日、都内で日本法弁護士を招いたネットワーキングイベントを開催しました。
当日は、法律事務所、外資系企業、日系企業、スタートアップ企業と、それぞれ異なる環境で活躍する4名の弁護士をパネリストとしてお迎えし、弁護士のキャリアパス、組織文化や働き方の違い、チームビルディング、AI活用、そして法務人材市場の変化について、多角的な議論が行われました。
本レポートでは、当日のパネルディスカッションで特に印象的だった論点を抜粋してお届けするとともに、当日触れきれなかった背景も補足しながらご紹介します。
当日ご参加いただいた方にはインサイトの振り返りとして、ご都合が合わなかった方には現在のリーガル市場で注目されているテーマを把握する機会としてお役立てください。なお、各テーマについては、後日Apexとしての市場視点を交えたインサイトレポートとして改めて発信予定です。
イベント概要
本イベントは、ApexのLegal & Compliance Teamの紹介に続き、4名のパネリストによるディスカッション、その後にネットワーキング交流会という流れで実施されました。 パネルディスカッションでは、以下の5つのテーマを軸に議論が行われました。
弁護士のキャリアパス
組織文化と働き方の違い
チームビルディング
テクノロジーの活用
Q&A
パネリスト
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高橋 豪氏
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 オブカウンセル
法律事務所と複数の事業会社双方での豊富な経験を持ち、インハウス法務組織の運営や育成についても具体的な実践知を共有いただきました。
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佐々木 弘造氏
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 Chief Legal Officer
法律事務所での長年の経験を経て事業会社に移り、法務部門の立ち上げや組織づくりに携わってきた立場から、キャリアと組織文化について示唆に富むコメントをいただきました。
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大竹 裕隆氏
アマゾンジャパン合同会社 Senior Corporate Counsel
法律事務所とグローバル企業双方での経験を踏まえ、法的リスクの捉え方、AI活用、そして弁護士という専門職のマネジメントについて、実務に基づく視点を提供いただきました。
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春日 舞氏
株式会社LegalOn Technologies 執行役員・General Counsel
法律事務所からテクノロジー企業へ転じた経験をもとに、スタートアップ環境での意思決定スピードや、AIと法務業務の今後についてお話しいただきました。
1. 弁護士のキャリアパス:法律事務所とインハウスは、優劣ではなく「得られる視点」が違う
最初のテーマである弁護士のキャリアパスでは、法律事務所とインハウスの違いを、単純な優劣ではなく「何を得られる環境か」という視点から捉える議論が印象的でした。
法律事務所は、リーガルスキルを蓄積し、磨き、弁護士としての専門的な判断力の土台を築く場としての価値が大きく、リスクについても網羅的かつ構造的にクライアントへ提示できる能力が養われます。
一方でインハウスでは、ビジネスを前に進めるための助言が求められる場面が多くなるため、単に“No”を示すだけでなく、「どの条件であれば“Yes”にできるか」を設計し、道案内・ナビゲートする視点が常に求められます。まさに、法務における「攻め」と「守り」の双方の視点を立体的に理解することにつながります。
近年インハウスが増えた影響で組織に土壌があるため、若手でもインハウスにキャリアチェンジしやすくなっています。ただ、インハウスへの転身は片道切符ではなく、法律事務所に戻ることで助言の質そのものが変化するという視点も共有されました。企業内部の意思決定プロセスや事業側の制約条件・リスクを理解した上で行う助言には別の価値があり、近年はインハウス経験を強みとして事務所に還元したいと考えるベテラン層も増えています。
こうした往復の経験が、弁護士としての専門性に厚みと奥行きを与えるという考え方は、多くの参加者にとって印象に残るポイントだったのではないでしょうか。
パネリストコメント
「インハウス転身で事業にぐっと近づいた時、保守的な自分をどう変えていくかが重要だった」
春日 舞氏 | 株式会社LegalOn Technologies 執行役員・General Counsel
2. 組織文化の違いは、仕事の進め方や法務判断そのものに影響する
組織文化のセッションでは、日系企業、外資系企業、スタートアップなど、それぞれの環境によって、リスクの取り方や意思決定のプロセスが大きく異なることが語られました。
日系企業では、必ずしも明文化されていない調整や関係構築が重要になる場面が多く、誰が正式な決裁者かだけではなく、どの関係者にどのように根回しをして進めるかが実務上のポイントになります。また、リスクについても可能な限り排除する、あるいはそれに近い状態で意思決定を行う傾向が見られる点が特徴です。
一方、外資系企業では、イノベーション・効率・スピードが重視されるため、一定程度のリスクであれば、リスクの質と量を把握しながら事業を前に進める考え方が主流です。そのため法務には、リスクの大きさや属性、許容度を見極めながら、実行後の検証や是正によって全体最適を図るという姿勢が求められます。
さらにスタートアップでは、事業成長のスピードを止めることが最大のリスクとなります。法務には、100点の完成度を待つのではなく、本質的な急所にフォーカスし、走りながら是正していく判断力が求められる、といったスタートアップ特有の割り切りの重要性についても言及されました。
このセッションを通じて見えてきたのは、法務の仕事は法律知識だけで完結するものではなく、その会社がどのような意思決定文化を持っているかを深く理解してはじめて機能する、という点です。
従来は日系から外資系への転身が王道のキャリアパスとされてきましたが、近年は外資で培った経験を日系で活かして還元したいと考える方も増えてきている点は、興味深い変化といえます。
パネリストコメント
「法的リスクだけでなく、ビジネスが何を得られるのか、または失うのかも判断のカギになる」
大竹 裕隆氏 | アマゾンジャパン合同会社 Senior Corporate Counsel
3. 強い法務組織は、専門性だけでなく「共有と対話」で作られる
チームビルディングの議論では、強い法務組織をつくる上で、個々の専門性だけでなく、知見共有や対話の仕組みが極めて重要であることが繰り返し語られました。
高橋先生からは、業務の「可視化」「共有」「チーム全体でのレベルアップ」という考え方が実例で紹介され、業務や課題が属人化しないよう、チーム全体で扱える状態にすることの重要性が示されました。
本イベントの準備段階での先生方との意見交換の中では、若手育成についても重要な示唆が共有されました。単に「背中を見て学べ」では十分ではなく、実例を用いながら、どこをなぜ修正すべきかを対話として伝えていく必要があるという点です。
弁護士は専門職としての自律性やプライドを持つからこそ、それを尊重しながらチームとして機能させていくことは法務組織特有のマネジメント課題といえ、近年共通して聞かれるテーマの一つです。
法務部門の強さは、優秀な個人の集合だけでは生まれません。学び合える仕組み、率直に相談できる空気、そしてチーム全体でレベルを引き上げる意識があってこそ持続的に機能し、成長していける組織になる。そんなメッセージが、このセッションには込められていました。
パネリストコメント
「強い法務組織には、見える化、共有、そしてチーム全体でのレベルアップが欠かせない」
高橋 豪氏|渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 オブカウンセル
4. AIの活用で、法務の真価がより明確に問われる時代に
今回のイベントで、特に参加者の関心が高かったテーマの一つがAI活用です。各パネリストが、それぞれの立場から示唆を提供していました。
AIの進化によって、5年後、10年後の弁護士の存在意義を不安視する声もありますが、各パネリストの議論に共通していたのは、「AIの答えをそのまま採用することはできない」という点でした。情報収集や要約、一定程度の論点整理まではAIが担えるとしても、内容の妥当性の検証やリスクの所在の整理、最終的にどの判断を採用するかという意思決定には、依然として弁護士の専門的な関与が不可欠であるという認識です。
つまり、AIの進化によって仕事内容そのものは変化していくとしても、より高度な判断や本質的な助言といった、人にしか担えない価値がこれまで以上に求められるようになるといえます。
その意味でAI時代は、法務の価値が下がる時代ではなく、法務の真価がより明確に問われる時代だと言えるのかもしれません。
ディスカッションのあとには、「クライアントが、AIの回答が正しいという前提で相談してくることが増え、それを訂正する新しい作業が生まれている」という参加者からのコメントもありました。
パネリストコメント
「AIの答えが正しいかを判断するのは、結局弁護士である」
佐々木 弘造氏|カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 Chief Legal Officer
5. 採用・転職・市場の変化をめぐるQ&Aも、大きな関心テーマに
Q&Aでは、企業が候補者から選ばれるために必要なこと、転職回数に対する市場の見方、若手弁護士がインハウスを志向する背景、そしてインハウスから法律事務所に戻る動きなど、採用市場とキャリアに直結するテーマが多く扱われました。
これらの問いは、単に転職を考えている人だけのものではありません。採用する側にとっても、法務人材が職場に何を求めているのか、どのような経験や姿勢が評価されるのかを考える上で重要な論点です。
またApexからは、定量・定性の両面から候補者側・採用側にとって最適な接点を設計していくという独自のアプローチについても共有がありました。こうした視点には、参加者の皆さまからも高い関心が寄せられました。
今後は、法律事務所かインハウスかという二択だけでなく、大手事務所の長期出向制度や、インハウスにおける副業可の広がりなどを背景に、両者の経験を横断するハイブリッドなキャリアの可能性もさらに広がっていくと考えられます。
Apexとしても、こうした採用市場の実務感覚やキャリア観が同じ場で共有されること自体に、大きな価値があると感じました。
まとめ
近年、日本のリーガル市場では、キャリアの選択肢、組織のあり方、求められる判断力、そしてテクノロジーとの関係性が同時に変化しています。本イベントで取り上げられた各テーマは個別の論点でありながら、いずれも現在の法務人材市場の構造的な変化を反映したものでもありました。
Apexは、法務・コンプライアンス領域に特化した採用支援を行う立場として、単なる人材紹介会社ではなく、業界の皆さまにとって価値ある知見共有と交流の場をつくる存在でありたいと考えています。本レポートが、現在のリーガル市場の動向を俯瞰し、今後の展開を見通す一助となれば幸いです。
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