監修者:小島 明(エイペックス 人事マネージャー)
人材開発とは、従業員一人ひとりの能力や可能性を中長期的に引き出し、経営戦略の実現や企業成長につなげるための取り組みです。近年は人的資本経営への関心が高まっており、人材育成だけでなく、キャリア開発やリーダー育成、後継者育成なども含めた戦略的な人材開発に取り組む企業が増えています。
一方で、「人材育成との違いは何か」「どのような施策が人材開発に当たるのか」と疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。
本記事では、人材開発の定義や目的、人材育成との違い、代表的な取り組み、重要性についてわかりやすく解説します。また、外資系企業や日系グローバル企業における人材開発の考え方にも触れながら、人材戦略における人材開発の役割を紹介します。
要点サマリー(30秒)
人材開発とは、従業員の能力や可能性を引き出し、経営戦略の実現につなげる取り組みです
人材育成が現在の業務成果を高めるのに対し、人材開発は将来の事業成長を支える施策です
主な施策には、OJT、リスキリング、キャリア開発、サクセッションプランなどがあります
グローバル企業では、人材開発を研修ではなく戦略的な人材投資として位置づけています
目次
人材開発とは?
人材開発と人材育成の違い
人材開発が重要視される背景と5つの役割
人材開発の代表的な手法・施策
グローバル企業に学ぶ人材開発の考え方
人材開発に携わる職種・仕事内容
人材開発に関するよくある質問(FAQ)
人材開発をはじめ人事のキャリア相談はエイペックスへ
人材開発とは?
人材開発(Human Resource Development)とは、従業員の知識・スキル・経験・意識を高め、個人の成長を企業成長や事業戦略の実現につなげる取り組みです。
人材開発の目的は、単に研修を実施することではありません。経営戦略や事業目標の実現に必要な人材像を明確にし、現在の人材とのギャップを埋めるための施策を計画・実行することにあります。
そのため、人材開発には研修やOJT、eラーニングなど業務に必要な知識・スキルを習得する施策だけでなく、キャリア開発やリーダー育成など、将来を見据えて従業員の能力や可能性を引き出す中長期的な取り組みも含まれます。特に外資系企業や日系グローバル企業では、「将来どのようなポジションを担える人材か」という視点で人材開発を設計する企業も少なくありません。
近年は人的資本経営への関心の高まりを背景に、人材開発の重要性は一層高まっています。厚生労働省の人材開発支援助成金でも、職務に関連する専門的な知識や技能を習得するための訓練が支援対象となるなど、企業によるリスキリングや専門人材育成への投資が進められています。
人材開発と人材育成の違い
人材育成は「今の成果」を高め、人材開発は「将来の事業成長」を支える取り組みと整理できます。

人材育成と人材開発のどちらか一方だけでは、企業は前に進むことができません。両方が機能して、はじめて組織の成長につながります。
また、人材育成では、OJTや階層別研修など業務遂行力を高める施策が中心となりますが、人材開発では、キャリア開発やリーダー育成、リスキリング、サクセッションプランニングなどを通じて個人の能力や可能性を中長期的に引き出し、将来の事業成長を支える人材を計画的に育成することが目的となります。
企業によっては、人材育成と人材開発を明確に区別せず運用することもあります。しかし、人事施策を設計する際は、「現在の成果を高めるための施策なのか」「将来の事業成長を支えるための施策なのか」という時間軸で考えることで、施策の目的や優先順位を整理しやすくなります。
人材開発が重要視される背景と5つの役割
人材開発が重要視されている背景には、労働人口の減少や人材獲得競争の激化、VUCA時代におけるビジネス環境の急速な変化などがあります。外部採用だけで必要な人材を確保することが難しくなるなか、企業には社内人材の能力を最大限引き出し、戦略的に育成・活用することが求められています。
人材開発は、こうした環境変化に対応しながら、経営戦略の実現や企業競争力の向上を支える重要な取り組みのひとつとなっています。
1. 社内人材を最大限に活用する
少子高齢化やシニア層の定年、ハイクラス人材の不足などにより、企業が必要なスキルを持つ人材を継続的に採用することは年々難しくなっています。そのため近年は、既存社員のスキル開発やリスキリング、適切な配置などを通じて、社内人材を最大限に活用しようとする企業が増えています。特に専門性の高い職種や領域では、外部採用だけでなく、社内で人材を育成する仕組みづくりが重要になっています。
2. 変化するビジネス環境に対応する
DX推進やAI・データ活用の拡大、事業のグローバル化などにより、企業が必要とする人材のスキルや能力は大きく変化しています。こうした変化に対応し、競争力を維持・向上するためには、従業員が継続的に学び、新たな知識やスキルを習得できる環境を整備することが不可欠です。特にDX推進においては、社員のITスキルやデータ活用力の向上、リスキリングによるスキル転換が組織の成長にとって重要な取り組みとなっています。
3. 次世代リーダーを計画的に育成する
企業が持続的に成長するためには、将来の経営や事業を担うリーダー人材を早い段階から計画的に育成することが重要です。近年は、経営人材不足やベテラン層の退職など、後継者の育成が重要な経営課題となっている企業が多くあります。経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」でも、経営戦略と人材戦略の連動やサクセッションプランの具体化が重要な取り組みとして示されています。
4. 従業員定着とエンゲージメント向上につなげる
人材開発は、従業員の成長を支援しエンゲージメントや定着率の向上につなげる役割もあります。近年は、働き方やキャリアに対する価値観が多様化しており、給与や待遇だけでなく「成長できる環境があるか」「キャリア形成を支援してもらえるか」を重視して企業を選ぶ人が増えています。
特に若手・ハイクラス人材ほど、成長機会やキャリア開発支援を重視する傾向があるため、主体性やモチベーション向上につながる人材開発は企業の競争力維持にとって重要な施策です。
5. 人的資本経営を推進する
人材開発は、研修や教育施策で短期的な成果を出すだけが目的ではなく、企業の持続的な成長を支える経営投資として位置づけられています。
人的資本経営の考え方では、人材をコストではなく価値創造の源泉となる資本として捉えます。近年は上場企業を中心に人的資本の情報開示が進み、人材戦略と経営戦略の連動が重視されています。そのため、リーダー育成や後継者計画、リスキリングなどの人材開発施策は、企業価値向上につながる重要な経営テーマとなっています。
人材開発の代表的な手法・施策
人材開発には、OJTやOff-JTをはじめ、eラーニング、自己啓発支援、1on1、タフアサインメントなどの育成手法があります。また、近年ではサクセッションプランやリスキリングなど、事業環境の変化や将来の成長に対応するための戦略的な人材開発施策も重視されています。以下では、人材開発の代表的な手法・施策を紹介します。
OJT・Off-JTによる能力開発
eラーニング・自己啓発支援による継続学習
1on1・キャリア開発支援による成長促進
タフアサインメントによるリーダー育成
リスキリング・アップスキリングによる能力強化
サクセッションプラン・タレントマネジメントによる戦略的人材活用
1. OJT・Off-JTによる能力開発
OJT(On-the-Job Training)は、実際の業務を通じて知識やスキルを習得する育成手法です。一方、Off-JT(Off-the-Job Training)は、研修や外部講座などを通じて業務から離れた環境で体系的に学ぶ方法です。
両者を組み合わせることで、実務能力だけでなく、役割やキャリアステージに応じた幅広い能力開発につなげることができます。
【主な取り組み例】
実務を通じた業務スキルの習得
管理職・専門人材向け研修
リーダーシップやマネジメント能力の向上
2. eラーニング・自己啓発支援による継続学習
eラーニングや自己啓発支援は、従業員が主体的に知識やスキルを習得するための仕組みです。働き方の多様化やビジネス環境の変化に対応するため、企業には社員が継続的に学習できる環境を整備することが求められています。
【主な取り組み例】
オンライン研修・学習プログラムの提供
資格取得や外部講座の受講支援
社員の自律的な学習促進
3. 1on1・キャリア開発支援による成長促進
1on1やキャリア開発支援は、上司と従業員が定期的に対話し、成長課題やキャリア目標を明確にする取り組みです。従業員自身が将来のキャリアを考え、必要な経験やスキルを主体的に身につけられる環境づくりにつながります。
【主な取り組み例】
定期的な1on1ミーティング
キャリア面談・キャリア研修
個人の適性や志向に応じた成長支援
4. タフアサインメントによるリーダー育成
タフアサインメントとは、従業員に現在の能力よりも高いレベルの課題や責任ある役割を任せることで、成長を促す育成手法です。特に次世代リーダー育成では、実践的な経験を通じて判断力やマネジメント能力を高める方法として活用されています。
【主な取り組み例】
新規事業や重要プロジェクトへの登用
難易度の高い業務への挑戦機会の提供
管理職候補への計画的な経験付与
5. リスキリング・アップスキリングによる能力強化
リスキリングは、新たな業務や役割に必要なスキルを習得する取り組みで、アップスキリングは現在の専門性や能力をさらに高める取り組みです。DX推進やAI活用など、事業環境が大きく変化するなかで、既存社員の能力を戦略的に高める重要性が増しています。
【主な取り組み例】
デジタル・AI関連スキルの習得支援
新たな事業領域に対応する能力開発
専門性向上のための継続的な学習機会の提供
6. サクセッションプラン・タレントマネジメントによる戦略的人材活用
サクセッションプランニング(後継者育成計画)は、経営など重要ポジションを担う人材を計画的に育成する取り組みです。また、タレントマネジメントでは、従業員のスキルや経験、適性などの人材情報を可視化し、戦略的な配置・育成につなげます。
人的資本経営が重視される現在では、将来の経営人材を確保し、組織全体の人材価値を最大化する仕組みづくりが重要になっています。
【主な取り組み例】
次世代経営人材・管理職候補の育成
人材情報の可視化と適材適所の配置
経営戦略に基づく人材ポートフォリオの構築
グローバル企業に学ぶ人材開発の考え方
グローバル企業の人材開発では、研修の実施そのものよりも「どの人材を、どの経験によって、どのポジションで活躍できる人材に育てるか」という視点が重要です。
特に外資系企業では、人材開発を経営戦略の一部として捉え、重要な人材投資として位置づけるケースが多くあります。従来の日系企業で見られる全員一律の研修・育成方法ではなく、 個人の役割やポテンシャルに応じて成長機会を意図的に設計し、将来のリーダーや専門人材を計画的に育成する視点が必要とされます。
経営戦略と連動した人材開発を重視する
グローバル企業では、事業計画と人材計画をセットで議論するのが一般的です。例えば、新規市場開拓では営業人材だけでなく、組織を率いるリーダーや専門領域を担う人材まで含めて必要な人材ポートフォリオを検討します。
そのため人材開発では、「将来どのような人材が必要になるのか」という視点から、求められるスキルやリーダーシップ要件を定義し、育成計画へ落とし込むことが求められます。人材開発を研修運営にとどめず、事業戦略を実現するための戦略的な人材投資として位置づける点が、グローバル企業の特徴です。
ハイポテンシャル人材を計画的に育成する
グローバル企業では、将来的に大きな役割を担う可能性があるハイポテンシャル人材を早期に見極め、計画的に育成する取り組みが行われています。選定では、現在のパフォーマンスだけでなく、学習敏捷性、リーダーシップ、異文化適応力、レジリエンスなど、将来の成長可能性も含めて総合的に評価します。
また、将来の経営人材候補として、サクセッションプランと連動しながら中長期的にリーダー育成を進める企業も少なくありません。多くの企業で定年による経営幹部の世代交代を見据え、数年単位で育成対象者を選定・育成する動きが近年活発に見られます。
グローバルリーダー育成とタフアサインメントを重視する
グローバル企業では、将来の事業成長を担うリーダーを育成するため、研修だけでなく実践的な経験機会を重視する傾向があります。例えば、不採算部門の立て直しや新規事業の立ち上げ、組織横断プロジェクトなど、難易度の高い役割を任せるタフアサインメントを活用する企業も多くあります。「経験からの学び」を重視する70:20:10の考え方のように、実務経験を通じた能力開発はリーダー育成において重要な要素とされているためです。
また、グローバルリーダー育成では、クロスボーダープロジェクトへの参画や海外赴任、リージョナル会議への参加などをアサインすることで、異文化環境での推進力や意思決定力、海外拠点との調整力などを高める機会を提供しています。さらに育成効果を高めるため、経営層によるメンタリングやコーチングを組み合わせ、経験から得た学びを次の成長につなげる取り組みも行われています。
人材開発に携わる職種・仕事内容
人材開発は、人事部門だけでなく事業部門や経営層と連携しながら推進されます。担当する役割によって仕事内容は異なり、実務レベルの育成施策を担う人材開発担当から、事業戦略と人材戦略をつなぐHRBP、組織変革を推進する組織開発担当、経営視点で人材戦略を統括するCHROまで、幅広いポジションが関わっています。
また、外資系企業では人材育成や能力開発を担う機能をL&D(Learning & Development)と呼ぶケースもあり、研修だけでなく、リーダー育成やキャリア開発など幅広い取り組みを担当します。
【人材開発に関わる主な役割】
人材開発担当:育成施策を企画・実行する
HRBP:事業戦略と人材戦略をつなぐ
組織開発担当:組織全体の成長・変革を支援する
CHRO:経営視点で人材戦略を統括する
人事部門(人材開発担当)
人事部門の人材開発担当者は、従業員の能力向上やキャリア形成を支援するための施策を企画・実行します。
主な仕事内容は以下の通りです。
教育・研修プログラムの企画・運営
階層別・職種別の育成体系の設計
スキル開発やキャリア開発支援
人材開発施策の効果測定・改善
人材開発担当者には、研修を運営するスキルだけでなく、事業課題を理解し必要な人材やスキルを見極める力が求められます。また、従業員や経営層、現場部門と連携しながら施策を推進するコミュニケーション力も重要です。
HRBP
HRBP(Human Resources Business Partner)は、事業部門のパートナーとして、組織・人材面から事業成長を支援するポジションです。人材開発においては、事業戦略を踏まえて必要な人材やスキルを明確化し、リーダー育成や組織づくりを推進します。
主な仕事内容は以下の通りです。
事業課題に基づく人材戦略の策定
次世代リーダーや重要ポジション人材の育成支援
組織課題の分析と改善施策の実行
経営層や現場との連携
特に外資系企業やグローバル企業では、HRBPが経営戦略と人材戦略をつなぐ重要な役割として位置づけらるため、事業への理解や課題発見・解決力、経営層や事業責任者と対話する力が求められます。
組織開発・人材育成担当
組織開発や人材育成を専門に担当する職種では、個人の能力開発だけでなく、組織全体のパフォーマンス向上を目的とした取り組みを推進します。
主な仕事内容は以下の通りです。
組織課題の分析
従業員エンゲージメント向上施策の企画
キャリア開発支援
リーダーシップ開発プログラムの設計
組織開発担当には、組織や人材の課題を分析する力に加え、変化を促進するファシリテーション力や、多様な関係者を巻き込む調整力・推進力が求められます。従業員が継続的に成長できる環境を整えることで、組織の持続的な成長を支援します。
CHRO
CHRO(Chief Human Resources Officer)は、人事領域の最高責任者として、経営戦略と人材戦略を結びつける役割を担います。人材開発においても、次世代リーダー育成やサクセッションプラン、人的資本経営の推進など、企業全体の人材戦略をリードします。
人材開発に関するよくある質問(FAQ)
人材開発への理解をさらに深めるために、仕事内容やキャリアに関してよく寄せられる質問をまとめました。
Q. 人材開発と組織開発の違いは何ですか?
A. 人材開発は、従業員一人ひとりの知識・スキル・能力向上を目的とした取り組みであるのに対し、組織開発は組織文化やコミュニケーション、意思決定の仕組みなど、組織全体の変革を目指す取り組みを指します。実際には、両者を組み合わせて進めることも多く、人材開発による個人の成長と組織開発による環境整備を両輪で進めることで、より高い効果が期待できます。
Q. 人材開発担当者にはどのようなスキルが必要ですか?
A. 人材開発担当者には、研修運営スキルだけでなく、事業課題を理解する力や、経営戦略と人材戦略を結びつける視点が求められます。特に近年は、タレントマネジメント、サクセッションプラン、リーダー育成、データ活用などの知識に加え、経営層や事業部門と対話できる力を重視する企業も増えています。外資系企業やグローバル企業では、英語力や異文化コミュニケーション力が求められるケースもあります。
Q. 人材開発の仕事に資格は必要ですか?
A. 人材開発の仕事に必須の資格はありません。ただし、人材育成や組織開発に関する知識、ビジネスへの理解力、関係者を巻き込みながら施策を推進する力が求められます。資格取得を目指す場合は、国家資格のキャリアコンサルタントや人材開発・組織開発に関連する資格などが知識習得に役立ちますが、実務経験や経営視点を持って人材課題を解決できる能力のほうが重視されます。
Q. 人材開発が「追い出し部屋」と言われることがあるのはなぜですか?
A. 人材開発は本来、従業員の能力やキャリア形成を支援し、企業と個人の成長につなげる取り組みです。一方で、目的や支援体制が不明確なまま研修や配置転換が行われた場合、従業員から否定的に受け取られるケースがあります。重要なのは、人材開発を人員整理の手段ではなく、経営戦略の実現に向けた人材投資として推進することです。
Q. 人材開発のキャリアパスにはどのような選択肢がありますか?
A. 人材開発の経験を積むことで、HRBP、人事企画、タレントマネジメント、組織開発などへキャリアを広げることができます。さらに、人的資本経営や次世代リーダー育成の経験を活かし、将来的には人事マネージャーやCHROなどより上位のポジションを目指すことも十分可能です。
人材開発をはじめ人事のキャリア相談はエイペックスへ
人材開発は、従業員の能力開発にとどまらず、経営戦略の実現に必要な人材を育成・配置し、組織の成長を支える戦略的な人事領域です。人的資本経営、DX推進、グローバル化などの加速により、人材開発の知見を持つ人材へのニーズは高まっています。
特に外資系企業やグローバル企業では、人材開発の経験を積むことでHRBP、人事企画、タレントマネジメント、組織開発などの領域や、人事マネジメント職にキャリアを広げる機会が多くあります。
エイペックスでは、人材開発をはじめとした人事領域に特化し、外資系企業・日系グローバル企業のハイクラス求人をご紹介しています。各業界・職種に精通した専門コンサルタントが、これまでの経験だけでなく、今後目指すキャリアや市場価値を踏まえながら最適なキャリア選択をサポートします。
これから人材開発職を目指す方、人材開発経験を活かして次のキャリアへ挑戦したい方、より戦略性の高い人事ポジションを目指したい方は、ぜひエイペックスへご相談ください。