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国際弁護士資格は取得すべき?メリット・デメリットを解説!

渉外事務所へ就職した若手弁護士の方は、数年以内に留学と海外の法曹資格の取得を目指すことが多いでしょう。事務所によっては必須ではありませんが、ほとんどの若手弁護士が取得を目指して海外に留学するのが実情です。今回はアメリカ、特に一番多いニューヨーク州の司法試験の仕組みや資格取得の条件、取得のメリット・デメリットについて解説したいと思います。

アメリカの司法試験の仕組み

アメリカのロースクールはほとんどの場合、J.D.(Juris Doctor:法務博士)コースとLL.M.(Master of Laws:法学修士)コースの2つの課程を備えています。

J.D.コース(3年制)が、主にアメリカの4年生大学の学部卒業生などを対象とした通常のロースクールであるのに対し、LL.M.(1年制)は、母国で法学部・ロースクールを卒業した留学生を対象としたコースとなります。日本からの留学生の大半は、このLL.M.コースに留学します。

American Bar Associationが認定するロースクールでJ.D.もしくはLL.M.を修了すると、各州の司法試験(Bar Exam)の受験資格が得られます。司法試験は年2回(2月/7月)で、ニューヨーク州の試験であれば400点満点中266点が合格基準です。

このようにアメリカの法曹資格は州によって分かれており、日本人弁護士の多くはニューヨーク州の資格を取得します。カリフォルニア州の資格や英国資格を取得する人もいますが、クロスボーダーの契約でも準拠法をアメリカとする場合で一番多いのがニューヨーク州法になりますので、やはりニューヨーク州の弁護士資格が最も有用であると言って良いでしょう。もしアメリカで法律事務所や企業の法務部に就職しようとする場合でも、求人数からしてニューヨークが圧倒的に多くのチャンスがあります。

なお、司法試験合格だけではアメリカの弁護士として登録することはできません。ニューヨーク州であれば、弁護士倫理試験、ニューヨーク州法に関する試験を通過する必要があります。

また、「プロボノ」と呼ばれる法律系の社会貢献活動を50時間行うことも弁護士登録の条件となります。プロボノはロースクールのプログラム内で準備されていることがあり、日本帰国後もリモートで受け付けている団体もあるようです。一番簡単なのは、資格取得後に配属される研修先(渉外事務所では、資格取得後提携事務所への出向をアレンジしてくれる場合が多い)において、研修先が実施するプロボノ活動に参加することです。

外国の法曹資格によくあることですが、上記以外にも登録時や登録後の要件が細かく定められていることが多く、ご自身でもチェックを怠らないことが重要になります。

海外の弁護士資格がメリットとなるキャリア

日本の弁護士資格を有するすべての方にとって、海外の法曹資格取得がメリットになるわけではありません。

事務所でコーポレート/M&Aおよび銀行金融のプラクティスグループに所属する弁護士の方であれば、積極的に留学し海外の弁護士資格取得を目指すべきです。これらのプラクティスではクロスボーダー取引が多く、日々の業務で純粋に国内案件のみを扱うことは皆無と言って良いでしょう。外国、特に英米の法律知識の取得は業務において大変強みとなります。コモンローにおける契約法の概念、会社設立や清算、エクイティ(衡平法)の概念、紛争解決の仕組みなどを理解できていれば、契約交渉やドラフト作成時に非常に有効です。

また、事務所内での昇進においても資格取得が有利に働くことが多くあります。外国資格の取得がパートナー昇格の条件となっていることはあまりないと思われますが、やはり事務所が求める留学や資格取得に成功したという事実は強みになります。また、資格取得後の研修は海外事務所または提携事務所への出向という形で行われますが、海外事務所でのネットワークを構築しておけば後のプラクティスにおいても役に立つことが期待されます。

もちろん、将来企業内弁護士(インハウスロイヤー)を目指す方にとっても、活躍できるフィールドが広がります。日本法人を置く外資系企業や海外に進出している国内のグローバル企業ではクロスボーダー案件を数多く扱いますので、国際的な法律知識があり、高度な英語力を有する弁護士の存在は極めて重要になります。当然必要とするのは大手有名企業が多いため、報酬や待遇面でも魅力的なオファーも多く今後の選択肢が広がります。

外国弁護士資格取得のメリット・デメリット

ここで、外国の法曹資格を取得するメリット、デメリットをまとめておきましょう。

メリット>

  1. 帰国後のプラクティスにとって有用な知識が得られ、また事務所内での今後のキャリアパスに有利に働く。

  2. 将来インハウスロイヤーを目指す際に、国際案件を多く扱う一流企業への就職など、オポチュニティーが広がる。

  3. 事務所のホームページのプロフィールや自身の名刺に、日本法弁護士であることに加え外国資格の保有者でもあることも記載するため、クライアント受けもよく「箔がつく」という効果が得られる。

  4. 資格取得後の研修先(海外事務所)はワークライフバランスに優れており、中核の業務に携わることはあまりないため業務量は比較的少なく、のんびりと海外生活を楽しめる場合が多い。

  5. ニューヨークのような大都会では必ず日本商工会議所のような組織があり、大学別や県別のグループが結成されており、それらに顔を出しおくことで日本人駐在員とのコネクションを構築することができる。

<デメリット>

  1. 費用の負担が大きい。事務所がある程度負担してくれるケースが多いが、帰国後すぐに退職すると負担分は返金する決まりになっていることが多いので注意した方が良い。

  2. 資格取得の費用と労力に比して、資格自体の有用性が低い場合もある。日本で外国資格保有者が原資格国の法律業務を行うには、要件を満たしたうえで「外国法事務弁護士」としての登録を受ける必要があり、また渉外事務所では現地事務所を利用するため外国資格の出番はあまりない。クライアント側からの信用という面でも、資格を持ってるだけの外国人とアメリカ人弁護士では劣勢になってしまうのが現実。

弁護士資格取得に有利なニューヨーク州

ニューヨーク州司法試験の合格率は高く、初回の受験者の場合は約80%が合格します。外国人留学生の場合でも、合格率は50%前後です。日本人だけの統計はありませんが、日本法弁護士として事務所からLL.M.コースに留学して受験する場合には、100%に近い合格率と言って良いでしょう。これはもちろん日本人が優秀ということもありますが、数年間の日本でのプラクティス経験で、法律家としての「勘」が鋭くなっているということもあると思います。

ニューヨーク州の弁護士資格取得後、数年の間にパートナーに昇格する弁護士も数多くいますし、事務所内での昇格にとどまらず、大手の外資系法律事務所や商社法務部への転職など、外国の弁護士資格がステップアップの契機ともなることもよくあります。

このように、日本における今後の法務実務の大きな助けとなり、またキャリアパスが開かれる可能性があるのが外国の法曹資格です。渉外事務所に勤務する若手弁護士の方は、ぜひ良い機会として検討する価値が十分にあると思います。

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