製薬業界には、国内外を問わず多種多様な企業が存在し、事業内容も幅広いため、一般の方にとってはわかりづらい業界です。
特に転職を検討している方にとっては、「どの企業が注目されているのか」「どんな職種やキャリアパスがあるのか」「外資系と内資系で働き方にどんな違いがあるのか」といった情報を集めるのは簡単ではありません。
そこで本記事では、製薬業界の転職に強みを持つエイペックスが、以下のような視点から業界を徹底解説します:
【2025年最新版】製薬企業の売上ランキング(国内・海外)と上位企業の特徴
今後注目すべき製薬業界トレンド
製薬企業の職種と求められるスキル・キャリアパス
外資系・日系製薬企業の働き方の違い
外資系製薬企業に求められるスキルや特性
製薬業界へ転職するメリット・デメリット
転職やキャリア形成に役立つ内容をわかりやすくまとめていますので、製薬業界の理解を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次:
製薬企業とは
国内製薬企業の売上ランキング【2025年最新版】
国内製薬企業の売上高トップ3の会社概要
武田薬品工業・大塚HD・アステラス製薬が売上上位を占める理由
製薬企業の世界売上ランキング【2025年最新版】
世界の売上高トップ3の会社概要
ロシュ・メルク・ファイザーが売上上位を占める理由
今後注目すべき製薬企業の動向とトレンド
製薬企業の職種と求められるスキル・キャリアパス
研究・開発職
安全性関連職
事業開発関連職
品質・製造・生産職
営業・マーケティング職
メディカル関連職
外資系製薬企業と日系製薬企業の働き方の違い
外資系製薬会社に求められるスキルや特性
製薬業界に転職するメリット・デメリット
製薬業界に強い転職エージェントに相談するメリット
製薬企業とは

製薬企業は、医薬品の研究・開発・製造・販売を行う企業です。薬局で販売されている市販薬(OTC医薬品)に特化して製造販売する企業もありますが、売上の上位を占めるのは、医師の処方が必要な医療用医薬品(処方薬)やワクチンを取り扱う製薬会社になります。また、処方薬のなかでもジェネリック医薬品に特化して製造販売する企業もあります。
バイオテクノロジーを活用した新しい治療法を開発するバイオテクノロジー企業も国内外で数多く登場しており、近年はバイオ医薬品を手掛けるベンチャーが新薬候補を創出し、莫大なリソースが必要な治験(臨床試験)以降の工程を大手製薬会社が担当するビジネスモデルが主流になっています。
バイオ医薬品を含めた医療用医薬品のビジネスでは、外資系製薬会社の場合、海外で開発中もしくは開発された医薬品について日本で治験を行い、日本市場への導入・販売を目指すのが一般的です。
一方、日系企業は、国内ニーズに応じた製剤の開発を中心に、海外市場への参入や拡大を目指すケースも多く見られます。近年は複数の国や地域で同時に実施される国際共同治験が増加傾向にあり、日本だけでなく欧米の規制要件の知識も重要になってきています。
製薬企業での職種は多岐にわたり、創薬研究を含めた研究開発(非臨床開発)、臨床開発、薬事、品質、安全性、製造・生産、メディカル、マーケティング、MR(医薬情報担当者)などがあります。
また、近年は医薬品を取り巻く複雑な環境に対応するため、マーケットアクセス・プライシング、ガバメントアフェアーズ、ペイシェントリレーションズ、HEOR・HTA、RWD・RWEといった比較的新しいポジションが外資系企業を中心に増えつつあります。
製薬企業は、自社の利益を追求することだけでなく、患者さんの医療アクセスの向上など医療と人々の健康の向上に貢献することも責務であり、社会貢献性の高い業界です。
会社のビジネスだけでなく、医療や社会に貢献できる仕事に興味がある方、患者さんを第一に考えて問題の解決に尽力できる方、医学や薬学など自身の専門性を活かして成長したい方などにとって、活躍の場が多い就職・転職先となっています。
国内製薬企業の売上ランキング【2025年最新版】
2025年版国内製薬会社売上高ランキング上位10社は下記の通りです。
トップは7年連続で武田薬品工業(4.6兆円)、2位は大塚ホールディングス(2.3兆円)、3位はアステラス製薬(1.9兆円)と、上位の顔ぶれは昨年と同様です。円安の追い風もあり、多くの企業が海外売上を伸ばしました。
出典:AnswersNews 「【2025年版】国内製薬会社ランキング―トップ3は今年も武田・大塚・アステラス、海外好調で軒並み増収」
国内製薬企業の売上高トップ3の会社概要
国内製薬企業の売上高トップ10位をご紹介したところで、上位3位を占めた会社の規模や主な製品などをご紹介していきます。
1. 武田薬品工業(Takeda Pharmaceutical Company Limited)
武田薬品工業は、1781年創業の日本最古の製薬企業で、現在はグローバル製薬企業として世界80か国以上で事業を展開しています。大阪に本社を構え、2019年にはアイルランドの製薬企業シャイアーを買収し、グローバルでの存在感を一層高めました。
消化器系、中枢神経系疾患、がん、希少疾患、ワクチンなどの領域に強みがあり、主力製品にはIBD治療薬「エンタイビオ」、ADHD治療薬「ビバンセ」などがあります。2025年3月期の売上収益は約4.6兆円で、国内トップの座を維持しています。
2. 大塚ホールディングス(Otsuka Holdings Co., Ltd.)
大塚ホールディングスは、1964年設立の大塚製薬を中核とするグループの持株会社で、2010年に東証一部(現プライム)に上場しました。本社は東京にあり、医療用医薬品のほか、栄養製品や機能性飲料(ポカリスエットなど)でも知られています。
医薬品部門では、統合失調症・うつ病治療薬「レキサルティ」、抗がん剤「ロンサーフ」などが世界的に展開されており、2025年3月期の売上高は約2.3兆円に達しました。
3. アステラス製薬(Astellas Pharma Inc.)
アステラス製薬は、2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業の合併によって誕生した製薬会社で、東京に本社を置いています。グローバルに事業を展開しており、重点領域はがん、免疫、腎疾患、眼科、遺伝子・細胞治療などです。
前立腺がん治療薬「イクスタンジ」が売上の半分近くを占めており、2025年3月期の売上高は約1.9兆円と大きく成長しています。
武田薬品工業・大塚HD・アステラス製薬が売上上位を占める理由
1. 自社開発力とM&Aによる主力製品の拡充
国内大手製薬企業は、研究開発への継続的な投資と、戦略的M&Aによって製品ポートフォリオを強化しています。
武田薬品工業は、シャイアー買収により希少疾患や血漿 (けっしょう) 分画製剤といった領域を拡充し、消化器系の「エンタイビオ」や中枢神経系の「ビバンセ」など、グローバルで売上を伸ばす主力製品を複数保有。
大塚HDは、「レキサルティ」や「ロンサーフ」など自社開発薬が世界的に好調で、長期処方が可能な領域に集中して収益の安定性を確保しています。
アステラス製薬も、「イクスタンジ」などのがん領域に注力しつつ、細胞・遺伝子治療分野へのM&A投資も積極的に行い、次世代医薬品の開発力を強化しています。
2. 海外売上比率の高さと円安の追い風
3社ともに海外売上の比率が高く、北米や欧州市場での事業展開に成功しています。特に武田薬品工業は売上の約8割が海外で、グローバルに承認・販売されている製品の売上が日本国内の製薬企業とは一線を画しています。
円安の影響により、外貨建て売上が円換算で大きく伸びたことも2025年3月期の業績に大きく貢献しています。
3. 成長領域(がん・精神疾患・希少疾患)への集中投資
成長市場とされるがん領域、希少疾患、中枢神経系疾患への集中投資も、業績拡大の原動力です。
アステラスの「イクスタンジ」、武田の「エンタイビオ」「アドセトリス」、大塚の「レキサルティ」などは、それぞれがターゲット領域で世界的に高い評価を受けており、ブロックバスター化しています。
また、アステラスと武田は遺伝子・細胞治療分野でも先行的な投資を進めており、次世代の柱となる医薬品の育成を加速しています。
製薬企業の世界売上ランキング【2025年最新版】
2025年版製薬会社世界売上高ランキング上位10社は下記の通りです。
スイスのロシュが2年連続で首位を獲得。2位米メルク、3位同ファイザーと、トップ3の顔ぶれは昨年と同様です。糖尿病・肥満症治療薬の好調を背景に、米イーライリリーがトップ10入りを果たしました。
出典:AnswersNews 「【2025年版】製薬会社世界ランキング―トップ3はロシュ、メルク、ファイザー…リリーがトップ10入り」
世界の売上高トップ3の会社概要
世界の売上高トップ10位をご紹介したところで、上位3位を占めた会社の規模や主な製品などをご紹介していきます。
1. Roche(ロシュ)
Rocheは、スイス・バーゼルに本社を置く世界最大級の製薬・バイオテクノロジー企業です。1896年に創業し、医療用医薬品と診断薬の2本柱で事業を展開しています。2024年の年間売上高は約660億ドルで、世界で約10万人の従業員が働いています。
日本では中外製薬がグループ会社として活動しており、がんや免疫、神経疾患などの領域に強みがあります。分子標的薬やバイオ医薬品の開発においても世界的に高い評価を受けています。
分子標的薬、バイオ医薬品、診断薬
2. Merck & Co.(米メルク)
Merck & Co.は、アメリカ・ニュージャージー州に本社を構える大手製薬会社で、1891年に設立されました(※ドイツのMerckとは別会社)。2024年の年間売上高は約630億ドルを超え、従業員数は約70,000人にのぼります。
主力製品には、がん免疫療法薬「キイトルーダ」や糖尿病治療薬、ワクチン製品などがあり、特にがん治療領域での存在感が際立っています。日本ではMSD株式会社が関連会社として活動しています。
3. Pfizer(ファイザー)
Pfizerは、アメリカ・ニューヨーク州に本社を置く世界的な製薬会社で、1849年に創業しました。2024年の年間売上高は約580億ドル、全世界で約83,000人の従業員が働いています。
COVID-19ワクチン「コミナティ」などで注目されたほか、ワクチン、抗がん剤、心血管系・神経系の治療薬など多様な製品ラインナップを持っています。日本ではファイザー株式会社を通じて、医療用医薬品の開発・製造・販売を行っています。
ロシュ・メルク・ファイザーが売上上位を占める理由
2025年版製薬企業世界売上ランキングにおいて、スイスのロシュ、アメリカのメルクおよびファイザーがトップ3を占めました。その背景には、以下のような3つの要因が考えられます。
1. 開発費への巨額投資によるポートフォリオの拡充
これらの大手製薬企業が売上を伸ばしてきた背景には、潤沢な資金による研究開発費への巨額の投資と、それによるポートフォリオの拡充が挙げられます。特に、メルクの「キイトルーダ(がん免疫療法薬)」や、ファイザーとビオンテックとの共同開発による「コミナティ(COVID-19ワクチン)」は世界的なヒット製品であり、売上の大きな柱となっています。
また、大手製薬会社は自社開発だけでなく、M&Aに対しても積極的で継続的な投資を行っていることも特徴です。スペシャリティファーマやバイオベンチャーの革新的技術や新薬候補をいち早く取り込むことで、特許切れによる収益減少への対応や次世代医薬品の開発スピードを速め、成長市場や新興市場での競争力を高めています。
2. グローバル市場での圧倒的なプレゼンス
これらの企業は、北米・欧州・アジアを中心にグローバルに展開しており、多国籍な臨床開発や薬事承認、マーケティング・販売体制を整えています。医薬品の売上は国や地域によって大きく異なるため、グローバルでバランスの取れた事業展開を行っていることが安定した収益につながっています。
3. バイオ医薬品・ワクチン分野への先行投資
バイオ医薬品やワクチン分野など、成長市場での競争力を高めていることも売上が好調な要因の1つです。
ロシュはバイオ医薬品に特化した早期の研究開発体制を確立し、中外製薬などとの戦略的アライアンスを強化し革新的医薬品の創出を加速させています。ファイザーとメルクもmRNAや遺伝子治療、ワクチン開発に積極的で、オンコロジーや希少疾患などの領域で強力で多様なパイプラインを有することで、成長領域においてもグローバルなリーダーシップを発揮しています。
今後注目すべき製薬企業の動向とトレンド

製薬業界は、技術革新や市場環境の複雑化により変化の激しいビジネス環境となっており、どの職種であっても変化への対応が必要な業界です。特に近年では、下記のようなトレンドが見られます。
薬価戦略の重要性が増加
バイオ医薬品の台頭や希少疾患治療薬の拡大などによる薬価の高騰や、薬価抑制政策、医薬品の経済性への関心の高まりなどから、製薬企業では薬価の適切なコントロールによる収益最大化の重要性が増しています。そのため、医薬品の経済的価値を最適化させるマーケットアクセスや、薬価・保険償還等に対応するプライシング、政策提言や規制当局との関係強化を目指すガバメントアフェアーズ部門の存在感が高まっています。
デジタル化 / DX化によるビジネスモデルの変革
他業界と同様に、製薬業界もコスト削減の必要性と業務プロセスの効率化のため、あらゆる分野でデジタル化・DX化が推進されています。AIや機械学習を活用した創薬研究をはじめ、臨床開発分野では通院の必要のない分散型臨床試験や、リアルタイムのデータ収集・解析等により実現するアダプティブ・デザイン試験の導入、服薬アプリや遠隔診療・電子処方箋などの患者体験の向上のための施策、コマーシャル分野ではデジタルマーケティングの活用や医師とのオンライン面談など、創薬ビジネスそのものを変革するデジタル技術の活用が各分野で拡大しています。
RWD/RWEを活用した開発効率化とエビデンス創出
実臨床データを基にしたRWD(リアルワールドデータ)・RWE(リアルワールドエビデンス)の活用が加速しており、RWD・RWE専任部署の設置や関連求人が増加傾向にあります。RWD・RWEは、臨床開発におけるデータ解析や試験設計・外部対照群への活用、承認申請や薬価交渉でのエビデンスの補完、医薬品の安全性評価、創薬研究でのリスクファクター分析、新たなエビデンスの創出など、汎用性の高いデータソースとして新薬開発や医療の質向上に大きく貢献しています。
「患者中心主義」へのニーズの高まり
Patient Centricityと呼ばれる患者を医療の中心に据える考えを提唱する企業が増えており、患者の声を臨床試験や製品設計に反映させたり、Patient Journeyと呼ばれる患者の治療体験の最適化を目指し、専門の職種を設置する企業もあります。また、患者の治療満足度や費用負担など、患者視点でのアウトカムを評価し医療の質向上に役立てるHEOR(Health Economics and Outcomes Research)や 、治療法の費用対効果を評価するHTA(Health Technology Assessment)についても、専任で従事する人材を多くの企業が募っています。
製薬企業の職種と求められるスキル・キャリアパス

以下は、製薬企業に設置されている主な職種一覧です。企業により職責が重複していたり、逆に細分化されていたり、ポジションの名称が異なっていたりする場合がありますので、大手を中心とした一般的な製薬企業での職種としてとらえてください。
■ 研究・開発職(R&D系)
研究職(創薬研究)
研究職は、新しい医薬品の候補となる化合物や抗体を探索・設計し、有効性や安全性の検証を行い、臨床試験実施の妥当性を評価する役割を担います。研究職と一口に言っても、化学合成部門、製剤部門、薬理部門、安全性部門、薬物動態部門など様々な部門に分かれ職種も多岐にわたるため、各自が専門領域を持ってそれぞれの部門で働くことになります。基礎研究2~3年、非臨床研究3~5年という長いスパンのプロジェクトに関わることになり、通常は国内企業にて求人募集があります。
求められるのは、医学・薬学・理化学・生命科学などの専門知識に加え、非常に高いレベルでの実験スキルやデータ解析力、最先端技術への興味と研究への応用・展開力です。英語論文の読解や考察、海外チームとの連携もあるため、一定の英語力も必要です。
キャリアパスとしては、専門性を深めてプロジェクトリーダーや研究管理職へ進むほか、臨床開発、薬事、メディカルアフェアーズ、アカデミアとの連携部門などに異動するケースもあります。
臨床開発職(Clinical Development)
臨床開発は、約5年の歳月を要する製薬会社にとっての一大プロジェクトであり、ヒトを対象とする臨床試験(治験)を行い、試験結果から薬剤の有効性・安全性を立証して厚生労働省から製造販売のための承認を得る職種です。治験の立案や進行管理、試験成績のデータ収集や解析、承認申請のための資料の作成など、さまざまな部署が協働で行い携わる職種も多岐にわたります。実際に治験実施施設を訪問し、試験が適切に実施されているかをチェック・監督する職種をCRA(臨床開発モニター)といい、製薬企業だけでなくCRO(開発業務受託機関)でも多くの募集があります。
求められるスキルには、GCP(Good Clinical Practice)省令や治験関連法規の知識、スケジュール管理能力、医療機関や社内外関係者との調整力があり、CRAは出張や柔軟な対応力、コミュニケションスキルも重要です。
キャリアパスは職種や経験により幅広く、CRAの場合はCRAを統括するプロジェクトマネージャー(PM)やラインマネージャー(LM)への昇進や、安全性情報管理(PV)やデータマネジメントなど親和性の高い他職種へのキャリアチェンジも可能です。
薬事職(Regulatory Affairs)
薬事職は、医薬品の製造販売の承認・認可を得るために、厚生労働省やPMDA(医薬品医療機器総合機構)と交渉・協働しながら申請業務を担当します。新薬の申請対応だけでなく、添付文書や包装資材の作成、薬事法の観点からの品質管理業務、社内の薬事教育、規制変更の対応など、開発から販売終了まで製品のライフサイクル全般を薬事面から支えるのも重要な任務です。企業の規模によっては、「開発薬事」「薬制薬事」「CMC薬事」等担当業務によってポジションを細分化しているところもあります。
求められるスキルには、薬機法やGCP省令をはじめとした関連法規の知識、開発プロセスや品質・コンプライアンスへの精通、論理的な文書作成力、当局との折衝能力、変化の激しい薬事環境に対し常にアップデートができる学習意欲など多岐にわたります。海外の薬事規制の知識やグローバルと協働できる英語力、ビジネス目標と規制要件に合致した薬事戦略を立案できるスキルも重要です。
キャリアパスとしては、実績を積むことで薬事部門のグループマネージャーやディレクター、その先の部門ヘッドへの昇進、薬剤師免許を持っていれば総括製造販売責任者に就ける可能性もあります。志向やバックグラウンドにもよりますが、薬事と親和性の高いマーケットアクセスやプライシング、ガバメントアフェアーズなどのポジションや、薬制薬事であれば品質保証やコンプライアンス系のポジションにキャリアチェンジし、品質管理責任者に就くケースも考えられます。
関連記事:製薬業界の薬事職の転職事情~企業が求める薬事人材とキャリアアップのポイント
■ 安全性関連職
安全性情報管理職(Pharmacovigilance/PV)
安全性情報管理(PV)職は、市販後(治験薬も含む場合あり)の医薬品やワクチンが適切に使用されているか、安全性に問題がないかなどをモニタリングし、必要に応じて安全対策を行う職種です。医療機関等から副作用や有害事象の症例を収集し、原因や重篤性を医学的・薬学的に分析・評価したあと、厚生労働省に報告したり医療機関に共有したりします。リスク低減の対策として、医薬品リスク管理計画(RMP)を作成・実行したり、特定されたリスクについては添付文書の改訂などを行い、適正使用に向けた情報提供活動も行います。
求められるスキルには、GVP(Good Vigilance Practice)やGPSP(Good Post-marketing Study Practice)省令等の関連法規の知識、医薬品のリスク評価や統計的手法による解析スキル、正確な文書作成能力などがあります。また、海外文献の読解が必要なため、読み書きを中心とした英語力も必須となります。
キャリアパスとしては、PV担当者からプロジェクトリーダーやマネージャー、安全管理責任者などへの昇進や、安全性戦略やリスクマネジメント部門へ進む道があります。経験によっては、臨床開発や監査・コンプライアンス、品質保証、薬事等へのキャリアチェンジなども考えられるでしょう。
PMS職(Post-Marketing Surveillance/製造販売後調査)
PMS職は、PMS(Post Marketing Surveillance)と呼ばれる発売後の製品の安全性の監視や有効性の評価、適正使用の推進のために行われる調査を担当します。業務内容は、調査の実施計画書や手順書の策定、調査結果のPMDAへの報告、再審査・再評価申請の関連業務、医療機関への適正使用の情報提供などがありますが、このうち実際に病院と連携して調査を行う職種をPMSモニターと呼んでいます。
求められるスキルには、GVPやGPSP省令等の関連法規の知識、データの正確な取り扱いや分析能力、結論に辿り着くための論理的思考力、それらを報告書にまとめられる文章作成能力、英語文献の読解力などがあります。特にPMSモニターの場合は、医療機関への調査票の作成依頼や回収など、現場の医師や看護師と連携できる高いコミュニケーション力が求められます。
キャリアパスとしては、スタッフからマネージャー、グループマネージャー職への昇進のほか、実績によってPV職へのキャリアチェンジも可能です。
■ 事業開発関連職
マーケットアクセス・プライシング職(Market Access & Pricing)
マーケットアクセス・プライシング職は、医薬品の経済的価値の最適化のためのシナリオを立案し、製品をベストな状態で市場に投入することが責務となる職種です。そのために、薬価に関わる戦略策定や規制当局との交渉、保険償還関連の対応などを行いますが、業務範囲は幅広く企業やポジションによって異なる場合も多くあります。
求められるスキルには、薬価制度や保険償還制度への理解、費用対効果モデルなど価値実証に向けたプロセス・ツール等の知識、HTA・HEOR等の知識、薬価政策の変更や事業環境の変化に対するリスク評価や管理能力、マルチステークホルダーとのネットワーク構築能力や管理能力等幅広く、英語力も求められることが多い職種です。
マーケットアクセスやプライシングは製薬企業のなかでも上級ポジションであり、そこからのキャリアパスは自身の志向やバックグラウンドにより異なるケースが多いでしょう。関連する事業開発や事業戦略系のポジションや、ビジネスの中核を担う上級ポジションにチャレンジすることも十分可能です。
その他事業開発関連職(Business Development)
上記の他にも、政策提言や規制当局との関係構築を担うガバメントアフェアーズ、医薬品のアウトカムを患者の健康や経済から評価するHEOR、費用対効果の評価から効果的な医療リソースの配分を導くHTA、患者団体との関係構築やペイシェントジャーニーの立案を担当するペイシェントリレーションズ、他の製薬企業やアカデミアとのパートナーシップの提携・管理を担当するアライアンスマネジメント、ライセンス契約を担当するライセンシングなど、さまざま職種があります。
■ 品質・製造・生産職
品質保証職(Quality Assurance)
品質保証職は、製造工程にとどまらず、製品の開発から市場流通後まで一貫して品質を維持する役割を果たします。具体的には、GMP(Good Manufacturing Practice)省令等に準拠したQMS(品質マネジメントシステム)やSOP(標準作業手順書)の設計、品質ガバナンス体制の構築・維持管理、社内監査、製造委託先の監査・管理、品質トラブルの調査・是正対応、クレーム対応・リコール対応など、多岐にわたる業務を統括します。また、継続的な業務プロセス改善等を通じて、安定供給とコスト効率の両立を目指すのも職責となります。
求められるスキルには、GMPやGQP(Good Quality Practice)省令など品質関連法規への理解、SOP作成能力や監査運用能力、データ分析力や論理的思考、関係各所との調整・交渉力などが含まれます。理系学位や薬剤師資格を有する人材が歓迎され、英語力(TOEIC650点以上)があるとグローバル展開企業では有利になります。
キャリアパスは、QAスペシャリストからQAリーダー、マネージャーへ進むほか、品質管理(QC)、製造技術、生産技術、監査・コンプライアンス、薬事、臨床開発といった関連部門へ異動するケースも多く見られます。
品質管理職(Quality Control)
品質管理職は、通常製薬会社の製造拠点(工場)に勤務することが一般的です。販売される前の医薬品が品質基準を満たしているかを確認する役割を担い、原材料の入庫~製造~出荷までの工程において、試験・分析、環境モニタリング、データ記録などを通じて安全で安定した製品の供給を支えます。製造現場や研究部門と連携しながら、試験法や検査機器の妥当性確認やトラブル対応も行います。
求められるスキルには、理系の基礎知識、分析機器の操作スキル、GMP省令への理解、正確な記録力、データ分析スキル、問題解決力などがあり、品質保証や薬事部門との連携も求められます。
キャリアパスとしては、分析研究やQCマネージャーへの昇進のほか、品質保証、製造技術、生産技術、流通管理、製造工程管理、CMC薬事への異動なども可能です。
製造・生産関連職(Manufacturing & Production)
製薬会社の製造拠点では、品質管理職のほかに生産管理や製造技術、生産技術、施設責任者としてのポジションや、サードパーティーの製造・品質管理等を担当するポジションなどがあります。職種により求められるスキルはさまざまですが、薬剤師免許や理系学位、GMPの知識、監査対応スキル、製造プロセスやバリデーションの知識などがあると活躍の場が広がります。
■ 営業・マーケティング職
MR(Medical Representative/医薬情報担当者)
MRは、医療機関を訪問し、自社製品の有効性・安全性などに関する情報を医師・薬剤師など医療従事者に提供する営業職です。製品の適正使用を推進しながら処方拡大を図る役割があり、新薬上市や適応拡大直後には特に重要なポジションとなります。
求められるスキルには、医薬品・疾患領域に関する知識、プレゼンテーション力、医師との信頼関係を築くコミュニケーション能力があり、MR認定資格の保有も基本要件です。英語力を求められることは基本的にはありませんが、営業部長など本社勤務になると会議で英語を使用する場面が発生することが考えられます。
キャリアパスとしては、営業所長やエリアマネージャーなどの昇進を目指すのが一般的で、オンコロジーや希少疾患領域など成長市場の製品を担当できると、その後のキャリアの可能性が広がります。多くあるケースではありませんが、営業・マーケティング・MSLを複合的に担当するKAM(Key Account Manager)の求人がバイオベンチャーなどで増えており、担当領域などによってはキャリアチェンジの可能性があります。
関連記事:【2025年】MRの転職事情と今後のキャリアの選択肢~専門コンサルタントが詳しく解説!
マーケティング職(Pharmaceutical Marketing)
製薬企業におけるマーケティング職は、製品の市場分析・戦略立案・プロモーション施策の企画・実行などを担い、営業やメディカル部門と連携しながら製品価値を最大化する役割を果たします。製品ライフサイクル全体に関わり、新薬の導入からライセンスアウトや販売終了まで、売上目標の達成を目指し幅広い業務に対応します。
求められるスキルには、医薬品市場や疾患領域に関する知識、データ分析力、戦略的思考力、クロスファンクショナルチームとの協働力、KOL(Key Opinion Leader)との関係構築力などが挙げられます。海外本社とのやり取りも多く基本的な英語力が求められますが、上級ポジションになるほど英語での交渉力や折衝力が必要になります。
キャリアパスとしては、マーケティング部門で管理職を目指すほか、デジタルマーケティングなどマーケティング内の専門分野でのポジションや、SFE(Sales Force Effectiveness)などコマーシャルエクセレンスや営業企画のポジション、コーポレートストラテジーやPRなど経営企画や事業開発系のポジションへのキャリアチェンジも考えられます。
■ メディカル関連職
メディカルアフェアーズ職(Medical Affairs)
メディカルアフェアーズ職は、医学・科学的な専門知識をもとに、製薬企業のサイエンティフィックな顔として企業と医療現場の架け橋となる職種です。具体的には、KOLとの科学的な交流を行いながら、担当領域のメディカルストラテジーの立案、製品ライフサイクル計画の策定、実臨床データの創出やエビデンスの構築などを担当します。また、営業部門への教育や、自社講演会やアドバイザリーボードの企画、製品の非宣伝用資材の作成やマーケティング戦略への科学的アドバイスの提供など、幅広い業務に携わります。
求められるスキルには、薬学・医学・生命科学などのバックグラウンドや担当疾患領域への深い理解、KOLとの信頼関係を築くコミュニケーション力、臨床データや論文を読み解く分析力、戦略立案力などがあり、英語力も求められます。
キャリアパスとしては、メディカルアフェアーズ部門内でリーダーやマネージャーへの昇進を目指すほか、志向やバックグラウンドによって臨床開発や研究開発、マーケティング、薬事、RWE、安全性管理など他部門への異動も見られます。
なお、その他のメディカル関連職として、メディカルインフォメーション・ドラッグインフォメーション(DI)や、メディカルエデュケーション、学術等のポジションが企業により設置されています。
MSL職(Medical Science Liaison/メディカルサイエンスリエゾン)
MSLは、通常製薬会社のメディカルアフェアーズ部門に所属し、担当領域のKOLと科学的な情報交換やインサイトの収集を行うことで、自社医薬品の適正使用や価値向上を支援する役割を担います。医療機関への訪問が多いため出張の多い職種で、社内ではメディカルアフェアーズや臨床開発、マーケティング、薬事部門等と連携し、製品戦略立案やアンメットメディカルニーズの特定、エビデンス創出のサポートも行います。
求められるスキルには、サイエンスのバックグラウンドやKOLとのコミュニケーション力、担当疾患領域の文献や臨床データを理解・分析し、ディスカッションができる力が求められます。学術論文を読解し、海外KOLや担当者との議論や学会発表ができるレベルの英語力があると、活躍の場が広がります。
キャリアパスとしては、MSLマネージャーなどへの昇進のほか、メディカルアフェアーズ職であるメディカル戦略、メディカルアドバイザー、エビデンスジェネレーションなどに進んだり、RWE専任ポジションに就くケースもあります。臨床開発やマーケティングなど関連領域へのキャリアチェンジも可能です。
外資系製薬企業と日系製薬企業の働き方の違い

製薬業界には、日系企業と外資系企業という2つの大きなカテゴリがあります。同じ医薬品を扱う企業でも、その文化や組織体制、働き方には大きな違いがあります。ここでは、外資系製薬企業の特徴と日系企業との主な違いについてご紹介します。
1. 企業規模が大きく、国際競争力が高い
外資系企業はアメリカやヨーロッパに本社を置くグローバル企業が多く、売上規模、研究開発費ともに日系企業を上回るケースが一般的です。多国籍での展開が前提となり、グローバルな研究開発体制や規制対応力、広範囲な販売ネットワークなどにより、国際競争力が高いのが特徴です。
2. 新薬開発やM&Aに積極的でパイプラインが豊富
豊富な資金力を背景に、外資系企業は抗体医薬や遺伝子治療、細胞治療などバイオテクノロジーを活用した新薬開発への投資や、新薬候補を創出するバイオベンチャーへのM&Aやアライアンスに積極的です。成功した新薬から得た利益をさまざまな技術開発に再投資する好循環を構築しており、豊富なパイプラインの源泉となっています。
3. 成果主義で給与水準が高い
年功序列が根強い日系企業と異なり、外資系企業ではジョブ型の雇用体制と成果主義が基本です。KPIベースでの評価が行われ、成果次第で年収アップやインセンティブ支給が期待でき、国内企業と比較して給与水準が高いことが一般的です。
4. 意思決定のスピードが速い
外資系企業では少人数の決裁者で迅速に物事が決まる傾向があり、スピーディに新しいプロジェクトが立ち上がることも多く、現場の柔軟性も高めです。
5. 福利厚生・柔軟な働き方の制度が充実
リモートワークやフレックスタイム制度を導入している企業が多く、ワークライフバランスの実現や育児とキャリアの両立を支援する取り組みが進んでいます。また、女性活躍やダイバーシティ&インクルージョンを重視する文化も根付いています。
6. グローバル環境で英語力・国際的スキルが身につく
日々の業務で英語を使う機会が多く、海外拠点やグローバル本社とのやり取りや多国籍メンバーとの協業を通じて、グローバルな視野とビジネススキルを高められます。
日系製薬企業は、安定した雇用や長期的なキャリア形成を重視する傾向がある一方で、外資系製薬企業はスピード・成果・革新性を重視する文化が特徴です。ご自身の志向やキャリアプランに合った環境を選ぶことが重要です。
外資系製薬会社に求められるスキルや特性
専門知識と学歴
医療や医薬品に関する専門知識はすべての職種で必要とされます。多くのポジションで理系学士号が求められ、修士・博士号や薬剤師・医師免許があればさらに評価されます。即戦力が重視されるため、実務経験も重要です。
コミュニケーション力と協働スキル
多くの部署や社外関係者と連携する業務が多く、職種を問わず高いコミュニケーション能力が必要です。異文化理解や柔軟性、チームワークも重要視されます。
英語力
本社や海外拠点とのやり取り、社内文書の理解や学術論文の読解に英語が必要なため、TOEIC600~750点以上が目安となります。上位のポジションになるほどグローバルとの協働が多く発生するため、会議などでの英会話でのディスカッション力が求められます。
学習力と柔軟性
規制環境や薬価政策、技術の進歩等変化の激しい業界のため、常に新しい知識を学び、変化に柔軟に対応する力が求められます。M&Aや組織再編も頻繁に発生する可能性があるため、就業環境の変化への対応力とともに、常に自身の市場価値を高めておくための努力も必要です。
高い倫理観とコンプライアンス意識
人の生命に関わる製品を扱うため、高い倫理観とコンプライアンスへの意識が欠かせません。行動規範や業界ガイドラインを常に意識した誠実な行動が求められます。
製薬業界に転職するメリット・デメリット
製薬業界に転職するメリット
製薬業界は、患者さんの生命やQOL向上に直接結びつく社会的意義の高い分野であり、専門性を活かしたキャリア形成ができる安定性と成長性が大きな魅力です。薬事や研究開発・臨床開発、メディカルアフェアーズといった専門職では長期的なキャリアを築きやすく、MRなどの営業職から本社職へのキャリアパスも、経験によって十分可能です。特に外資系企業では給与水準が高く、グローバルな環境で働くチャンスも豊富です。医療や理系のバックグラウンドを活かしたい方、ダイナミックで使命感や誇りを持った仕事に就きたい方にとって、非常に魅力的な業界といえるでしょう。
製薬業界に転職するデメリット
一方で、製薬業界は専門性が高く、業界経験者が優遇される傾向があるため、未経験からの転職には一定のハードルがあります。また、薬価抑制政策やM&A・組織再編、グローバル方針の変更など、外部・内部両面での変化に常に対応しなければならず、柔軟性や適応力が求められます。さらに、高い基準での倫理性と透明性が求められる業界であり、厳格なコンプライアンス遵守が必須であるため、情報発信や営業活動に制限が多いことから自由度の低さを感じる場面もあります。専門性と安定性の裏側に、変化への対応力と学習俊敏性、高い倫理意識が必要とされる業界です。
製薬業界に強い転職エージェントに相談するメリット
製薬業界は専門性が高く、企業ごとに注力領域や採用基準が大きく異なります。そのため、業界専門の転職エージェントを活用することで、自分に合った企業やポジションに出会える可能性が高まります。
エイペックスでは、製薬業界に特化したコンサルタントが、個々のキャリア背景や希望に合わせて最適な求人をご紹介します。外資系・日系を問わず、非公開求人や企業ごとのカルチャー・働き方に関する詳しい情報もご提供。応募書類の添削や面接対策、条件交渉まで一貫してサポートいたします。
製薬業界での新たなキャリアを目指す方は、まずはお気軽にご相談ください。専門性をもったプロが、あなたの転職を全力で支援します。